アメリカカンザイシロアリを正しく知ろう!生態や特徴を徹底解説
COLUMN
シロアリコラム
投稿日 2018.08.28 / 更新日 2022.06.10
乾材シロアリ
アメリカカンザイシロアリを正しく知ろう!生態や特徴を徹底解説

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田中 勇史
しろあり防除施工士

大学では昆虫類の研究に携わる。2007年テオリアハウスクリニックに新卒入社。これまで3000件を超える家屋の床下を調査。皇居内の施設や帝釈天といった重要文化財の蟻害調査も実施。大学の海外調査にも協力。
「アメリカカンザイシロアリ」という近年日本で見かけるようになった外来種のシロアリをご存知でしょうか。アメリカカンザイシロアリは日本に古来からいたシロアリとは全く異なる生態をしており、いままでのシロアリ防除が全く通用しない脅威のシロアリです。
だからこそ被害を広げてしまわないためには正しい知識を身につけることが大切です。
このページを読んでいただくと
- アメリカカンザイシロアリの特徴
- アメリカカンザイシロアリによる被害の見つけ方
- アメリカカンザイシロアリを駆除する方法
これらについて知ることができます。
目次
アメリカカンザイシロアリの大まかな特徴

まずはアメリカカンザイシロアリの大まかな特徴として
・「カンザイ」という名前の由来
・元々の生息地域や近い仲間
・アメリカカンザイシロアリが脅威と言われる理由
についてご紹介していきます。
「カンザイ」という名前の由来
アメリカカンザイシロアリの「カンザイ」とは「乾材」のことであり基本的に乾燥した気乾状態(含水率10~20%程度)の木材をエサにしていることに由来します。アメリカカンザイシロアリは木材中の僅かな水分で生活する能力に長けており、体内の水分を失わないように排泄物に含まれる水分を直腸でほぼ完全に再吸収することができます。
とはいえアメリカカンザイシロアリは湿った床下や腐朽の進んだ壁の中で見つかることもありますし、どんな状態の木材にも被害を及ぼす可能性があるので注意が必要です。
原産国や日本での生息地域

アメリカカンザイシロアリの元々の原産地は北アメリカで、カリフォルニア州からワシントン州にかけての西海岸に広く分布しています。アメリカカンザイシロアリが日本で初めて発見されたのは1976年の東京都江戸川区で、そもそもの日本への移入は輸入家具が主であるとみられていますが、現在では被害材の移動や羽アリによって自ら生息域を拡大しているといわれています。
全国の各地で生息が報告されてくるようになりましたがその分布は局部的かつ集中的で、多発地域では深刻な被害が出てしまう場合もあります。
アメリカカンザイシロアリに近い仲間としは
- ハワイシロアリ
- ダイコクシロアリ
- ニシインドカンザイシロアリ
などがいますが、これらと比べてアメリカカンザイシロアリは日本で最も被害が深刻な種類であるといわれています。
アメリカカンザイシロアリが脅威と言われる理由
アメリカカンザイシロアリが脅威と言われる理由は、その発見や駆除の難しさです。アメリカカンザイシロアリのコロニー当たりの個体数はヤマトシロアリやイエシロアリに比べてとても少ないですが、それ故に初期の段階では被害の発見が大変難しくなっており、コロニーの創設から被害の発見までに最低でも4~5年かかっているだろうと思われる事例が多くあります。
また、同じ木材の中でもあちこちに巣が細かく別れており、イエシロアリやヤマトシロアリに比べて再生能力も非常に高いことから、たとえ駆除を行っても再び被害がすぐに発生してしまうケースが多く、シロアリ駆除業者を悩ませています。
アメリカカンザイシロアリの見た目の特徴

アメリカカンザイシロアリの見た目はその「階級」で異なります。
階級とは具体的には
- 擬職蟻(ぎしょくぎ)
- 兵蟻(へいぎ)
- ニンフ
- 有翅虫(ゆうしちゅう)
- 落翅虫(らくしちゅう)
- 生殖虫(せいしょくちゅう)
となっています。
どの階級のアメリカカンザイシロアリがどのような見た目でどのような役割を担っているのか、画像を交えながら詳しく見ていきましょう。
擬職蟻(ぎしょくぎ)・・・いわゆる働きアリ

体長は5~8mm程度。日本の主な種類であるヤマトシロアリやイエシロアリと比べ、平均的に一回り大きいです。カンザイシロアリの若い個体は脱皮後に羽アリや兵隊アリや生殖虫になる可能性があるので「擬職蟻」と呼ばれます。
兵蟻(へいぎ)・・・兵隊アリ

体長は10mm程度。頭部と顎のみ異常に大きく、褐色なのが特徴です(体は白色)。凶暴なイエシロアリと比べると、攻撃性はさほど強くはありません。戦う兵隊というよりは、コロニーのために犠牲になるような存在です。大きすぎる顎のため、自分では餌をとることができず、擬職蟻から分け与えてもらいます。
ニンフ・・・羽アリの前段階

体長は7~8㎜程度。次に脱皮する時は有翅虫になるので小さい翅の様なものが付いています。色は擬職蟻と同様です。
有翅虫(ゆうしちゅう)・・・羽アリ
体長は7mm程度。翅を入れると10ミリを超えます。全体的に褐色をしています。光の加減では翅が虹色に見えることもあります。※「有翅虫」は、翅(はね)の有る虫の意です。
落翅虫(らくしちゅう)・・・羽アリが翅を落としたもの。

体長は7mm程度。一見するとゴキブリの幼虫のようにも見えます。この落翅虫が、女王や王となり、新たなコロニーを作るきっかけになります。
生殖虫(せいしょくちゅう)・・・女王アリと王アリ

体長は10mm程度。落翅虫のお腹を膨らませたような感じです。一見しただけでは女王か王なのかはわかりません。シロアリはオスとメスが常に一緒にいて繁殖行動をしますが、アメリカカンザイシロアリについても同様です。
アメリカカンザイシロアリの羽アリの特徴

アメリカカンザイシロアリも在来種のシロアリと同様にコロニー(巣)が大きくなり、現在の住処では手狭になった場合、新しい住処を探すために一部のシロアリは羽アリという外気に適応した形(外皮が乾燥に強かったり、移動できるための翅がある)に変化して外界に飛び出します。
アメリカカンザイシロアリの羽アリには
・色 :全体的に褐色をしています。光の加減では翅が虹色に見えることもあります。
・形態 :4枚の翅が折りたたまれていて、形が平べったくスマートでカゲロウのようにも見えます。
・触覚 :ヤマトシロアリ、イエシロアリ同様に数珠状です。
・発生時期:6月~7月が発生のメインです。
といった特徴があります。
人為的な被害材の移動などを除くと、アメリカカンザイシロアリの生息域拡大は、ほとんどが羽アリによるものです。もともとのコロニー内の数が少ないので、多くても一度に百匹程度の発生です。飛ぶ力は強くなく、せいぜい数百メートルというところですが、近隣への拡大傾向から日本の在来種よりも生存率が高いと思われます。
発生時期は基本的に温暖な6~7月がメインですが、状況によっては一年中発生する可能性があります。
羽アリは繁殖能力のあるオス(王になる)とメス(女王になる)がいて、巣の外で出会ってつがいになり共同でコロニーを創設します。また、羽アリには新しく住処を探す(コロニーを作る、分布を広げるも同義)という目的の他に、多くなりすぎた個体数を減らす目的があるのではないかという説もあります。
「糞」がアメリカカンザイシロアリの被害発見の手がかり

アメリカカンザイシロアリは、砂粒状(顆粒状)の糞を巣の排出口(虫孔や糞孔ともいいます)と呼ばれる穴から外部に排出します。この糞が、カンザイシロアリの被害発見の手がかりとなります。
アメリカカンザイシロアリの糞に関する手がかりは
- 糞そのものの特徴を調べる
- 糞が排出されている穴を調べる
という2通りの方法で調べることができます。
糞そのものの特徴を調べる

アメリカカンザイシロアリの糞は
- 屋根裏
- 床下
- 軒下や家の外周り
といった場所で見かける事が多く、もしこういった場所に盛り塩のようなものが積もっていれば、アメリカカンザイシロアリの糞である可能性を疑いましょう。
「これってもしかしてアメリカカンザイシロアリの糞かな?」と思ったときは注意深くルーペで観察し
- 大きさは0.7~0.9mm程
- パラパラと非常に乾燥している
- とても硬く、爪で圧してもつぶれない
- 掃除をしてもまた同じ場所に排出される
- 形が一定で俵状、またはゴマ粒に縦に筋がはいっている
といった特徴があるかどうかチェックしてみましょう。特に一番長い部分が0.7~0.9mm程で俵状という特徴が一致していれば、アメリカカンザイシロアリの可能性が高いです。また、アメリカカンザイシロアリが侵入して間もないうちは糞を出さずに木屑のみを排出しますので、もし木屑が落ちていた場合は周辺に羽の痕跡がないかどうかも確認するようにしましょう。
糞が排出されている排出口を調べる

アメリカカンザイシロアリの糞の排出口は1ミリ程度の大きさものは画鋲で穴をあけたようなものから、5ミリ程度で糞などで塗り固めてあるものまで様々です。
先ほどご紹介した糞と併せて排出口も見つけることができれば、その周辺にアメリカカンザイシロアリが生息していることはほぼ確実です。

とはいえ排出口は注意してみないと専門家でも見落としが出るくらい見つけにくく、初めてみた人は「え、画鋲の穴じゃないの?」と思ってしまうかも知れません。
比較的大きな排出口であれば糞や分泌物、周辺の状況などから判断することができますが、作られて間もない排出口はやはり見分けることが困難です。
ですのでまずは糞が落ちていないかどうかを確かめるようにすることをおすすめします。
アメリカカンザイシロアリの駆除方法
アメリカカンザイシロアリの駆除方法として、大まかに
- 液剤(ムース状薬剤)による穿孔注入処理
- 毒ガスによる燻蒸処理
の2種類があります。それぞれの特徴についてメリット・デメリットを挙げながら詳しく解説をしていきます。
液剤(ムース状薬剤)による穿孔注入処理

日本及び海外で最も一般的に行われているのが、被害個所及び被害個所と思われる部分に液状(ムース状)の薬剤を注入して駆除する方法です。
ムース状薬剤による駆除の基本的な流れは
- 全ての虫孔の隅々まで薬剤を到達させる。
- その為に必要なところにもれなく穿孔し、薬剤の加圧注入をすることが不可欠となる。
- 薬剤は忌避性のないものを選定する。
- 実績のある原体名:クロチアニジン、クロルフェナピル、フィプロニル、イミダクロプリド等
- 侵入から現加害箇所までの経路を想定した施工が大事
となっていますが、その方法も現状では業者間でかなりの違いがあります。例えば、できるだけ少量の薬剤をピンポイントで処理する業者もいれば、被害の及ばないところまでやみくもに穿孔し、その後屋根裏に大量散布したりする業者もいます。
これらの違いはやはり経験によるものであると思われますが、薬剤という名の殺虫剤を使用する以上、できるだけ使用量を抑え、住まわれている方の健康や建物のことを考えたアドバイスや提案をしてくれる業者を選ぶことが賢明ではないかと思われます。
穿孔注入処理のメリット | 穿孔注入処理のデメリット |
---|---|
費用が安い | 完全な駆除が難しい |
残留効果が期待できる | 業者間で施工品質にばらつきがある |
国内、海外での実績がある | 国内に経験の多い業者が少ない |
毒ガスによる燻蒸処理

アメリカでは、薬剤による駆除処理よりも、毒ガスによる燻蒸処理が一般的です。 これは、建物をビニールシートですっぽりと覆ってしまい、その中に毒ガスを入れてすべての 生物を殺してしまう、という方法です。

日本でも文化財や古文書の保管庫などの害虫を駆除する場合に採用されますが、費用の面や日本の住宅事情を考えると現実的な工法ではありません。また、毒ガスは残留効果がありませんので再侵入される恐れもあります。
※当社では燻蒸処理に対応しておりません
燻蒸処理のメリット | 燻蒸処理のデメリット |
---|---|
建物内全てのカンザイシロアリを駆除できる | 費用が高い(国内で施工すると百万円以上) |
アメリカでは実績がある | 近隣許可が難しく住宅地では施工不可 |
上記に関連して日本では実績があまりない | |
残留効果がないので予防にならない |
アメリカカンザイシロアリの疑いがあるときは
アメリカカンザイシロアリについてお分かりいただけましたでしょうか。現在アメリカカンザイシロアリの被害は局所的で、日本では珍しい種類のシロアリです。しかしながら、家屋への侵入方法が日本固有種であるヤマトシロアリなどと全く異なり、建物のどこからでも侵入されてしまう怖さや万が一被害に遭ってしまった際の駆除の難しさがあります。
もし
- 粒状の固い糞のようなものが溜まっている
- 6~7月に赤黒い羽アリが出てきた
- 輸入家具から粉が出る
などの異常がありましたら、専門の業者に調査を依頼されることをおすすめします。
シロアリ1番!でもカンザイシロアリの駆除を取り扱っていますので、「カンザイシロアリかもしれないので一度様子を見て欲しい」という方はお気軽にご相談ください。