シロアリの女王を徹底解説!知られざる生活に迫る|シロアリ1番!

COLUMN

シロアリコラム

投稿日 2020.07.15 / 更新日 2025.04.23

シロアリ駆除

シロアリの女王を徹底解説!知られざる生活に迫る

WRITER

田中勇史

WRITER

田中 勇史

(公社)日本しろあり対策協会 防除技術委員

田中勇史

大学では昆虫類の研究に携わる。2007年テオリアハウスクリニックに新卒入社。これまで3000件を超える家屋の床下を調査。皇居内の施設や帝釈天といった重要文化財の蟻害調査も実施。大学の海外調査にも協力。しろあり防除施工士。白蟻専科研究室長。
YouTube:シロアリ駆除Channel

シロアリの女王ってどんな見た目なの?
女王シロアリを駆除するには?

家屋を静かに蝕むシロアリ。その被害の根源にいるのが「シロアリの女王」です。1日に数千個の卵を産み、巣全体を統率するこの存在を知ることは、シロアリ対策の核心を理解することに繋がります。

この記事では、そんな女王シロアリの生態や能力を、学術的な視点とシロアリ防除の視点、両方から深掘りします。「なぜ女王を知ることが効果的なシロアリ駆除につながるのか」という核心にも迫ります。

羽アリの正体は「シロアリの女王と王」

皆さんは群飛(ぐんぴ)という現象をご存知でしょうか。

群飛とは、普段は土の中にいるシロアリたちが羽アリへと姿を変え、一斉に空中へと羽ばたいて外に出ていく現象のことをいいます。

(動画)羽アリが群飛をおこなう映像。
ヤマトシロアリの群飛

(写真)ヤマトシロアリが群飛している建物。

 
日本のほぼ全域に生息するヤマトシロアリでは4月中旬から5月にかけて、関東以西の海沿いに生息するイエシロアリでは6月から7月に群飛が行われます。

では、なぜシロアリたちは群飛をするのでしょうか。それは「繁殖のため」と言われています。実は羽アリの正体は次世代の「女王」と「王」になるシロアリなのです。

ヤマトシロアリの羽アリ

(写真)ヤマトシロアリの羽アリ(のちの女王または王となる)。
ヤマトシロアリの兵蟻

(写真)ヤマトシロアリの働きアリと兵隊アリ。羽アリとは似ても似つかない。

 
お客様とお話ししていると、羽アリ=別の虫と誤解されている方も多くいらっしゃいます。確かに、羽があると見た目の印象が大きく変わるため、同じシロアリだとは思いにくいのかもしれません。

しかし、羽アリの正体は、将来巣を築くために飛び立つ女王と王の候補たちです。そしてこの群飛は、つがいとなる相手を探し、新たな巣をつくるための一大イベントなのです。

女王はシロアリ社会の階級の頂点

ヤマトシロアリの階級

群飛を行った羽アリは女王と王のつがいとなり、新たな巣を作ります。その中で子育てを行い、多くの職蟻や兵蟻を生産して数万から時には100万を超える巨大なコロニーへと発展していきます。この社会構造の頂点に君臨するのが女王と王なのです。

シロアリは真社会性昆虫と呼ばれ、明確な階級と役割分担を持つ高度な社会を形成しています。

シロアリの社会構造

職蟻
コロニーの中で最も数が多く、全体の90〜95%を占めます。巣の建設・修復、餌の採集や運搬、卵や幼虫の世話、女王への給餌など、生活全般を支える働き手です。
兵蟻
成熟したコロニーでは全体の2〜3%程度。主に外敵から巣を守る防衛役として機能します。発達した大顎(おおあご)を持ちますが、自力で餌を食べることができず、職蟻から口移しで餌をもらって生活しています。
ニンフ
生殖階級に分化する前段階の個体で、将来的に羽アリ(女王・王)や副生殖虫になる可能性があります。季節や環境条件によって成長ルートが変わるのが特徴です。
副生殖虫
女王や王が死んでしまった時にその代わりとなり巣を継続させる個体です。特に女王の代わりとなる副生殖虫は実質的には女王の「分身」にあたり、副生殖虫の存在そのものが女王の非常に長い寿命の秘密です。
女王・王
女王と王は最初に巣を創設したペアとなるシロアリです。もともとは翅の生えた羽アリで、ペアとなってからは巣の中でも最も奥深くの安全な場所で暮らし、卵を産んで子孫を残す事に専念します。職蟻や兵蟻などに比べて非常に長い寿命を持つのも特徴です。

このように、シロアリ社会は緻密な分業体制により成り立っており、女王と王を中心とした階層的なピラミッド構造を築いています。その頂点に立つ女王および王は、繁殖・統率・継続性を担う極めて重要な存在なのです。

女王シロアリ「体の特徴」

ではシロアリの女王について大まかな特徴を見ていきましょう。シロアリの女王といってもシロアリにも様々な種類がいて、女王の特徴も異なってきます。ですのでここでは主に、一般的なシロアリである「ヤマトシロアリ」と「イエシロアリ」の女王アリの体の特徴について紹介していきます。

特徴1.体は白くない

「シロアリ」という名前から、白い体を想像する方も多いかもしれません。ですが、群飛の際に目にするヤマトシロアリの女王アリ(羽アリ)の体色は実は黒が主体。胸の部分に黄色いラインが入っているのが特徴です。

シロアリの女王と王(羽アリ)

これは、女王アリが紫外線から身を守るためにメラニン色素をまとっているからです。もともと暗所で生活しているシロアリにとって、日光は大敵。女王アリは外に出る結婚飛行の前に、自らの体を黒く(濃く)変化させる準備を行い、紫外線への耐性を高めているのです。

外見だけで「これって本当にシロアリ?」と戸惑うことがあるのも、こうした生態的な戦略があるからなんですね。

特徴2.体にくびれがない

シロアリの大きな特徴の一つは、寸胴型の体型です。昆虫の体は「頭部・胸部・腹部」の3つのパーツに分かれていますが、シロアリは胸部と腹部が密接しておりくびれがほとんど見られません。胸から腹部にかけて、太さがほぼ変わらないのが特徴です。

シロアリとクロアリのくびれ

この特徴は、女王アリにも共通しています。慣れれば、この体型だけでシロアリであることが判別できるようになります。特に羽アリの季節になると、「シロアリの羽アリ」と「クロアリの羽アリ」がよく混同されますが、体のくびれの有無が識別の重要なポイントとなります。

クロアリは、頭部・胸部・腹部が明確に分かれており、胸部と腹部の間に「腹柄節(ふくへいせつ)」というくびれ構造があるため、体にくびれがはっきりと見えるのが特徴です。

この違いを知っておけば、羽アリを見たときに「これはシロアリかどうか?」を正確に判断しやすくなります。

特徴3.成熟した女王は他のシロアリに比べて大きい

群飛を終えたばかりの女王アリ(羽アリ)は、体長わずか数ミリで見た目も職蟻と大きくは変わりません。しかし、巣を作って繁殖を始めると、女王の体内では卵巣が発達し、腹部が肥大化していきます。

特にイエシロアリでは、成熟した女王の体長が4cmほどになることもあり、他の個体とは一目で区別できるほどのサイズになります。この驚くべき成長は、産卵に特化した体の進化によるもので、見た目も大きく異なります。

(動画)イエシロアリの成熟した女王アリ。腹部が大きく発達する。
イエシロアリの女王と王

(写真)肥大化し始めたイエシロアリの女王と王、兵蟻。それぞれの大きさの違いがわかる。

 
ただし、このように成長した女王は、巣の奥深くにある「王室」と呼ばれる空間に隔離・保護されており、外からその姿を確認することはほとんどありません。その存在は、まさに“巣の心臓部”として、静かに君臨しているのです。

シロアリの女王と王の特殊性

シロアリの女王と王は、他の昆虫とは異なる特異な生態を持っています。一生を通じてペアで行動し、役割を分担しながらコロニーを維持する姿は、昆虫の中でも極めて珍しいものです。

ここでは、そんなシロアリの女王と王ならではの特性について、2つの視点からご紹介します。

シロアリの女王と王は常にペアで行動する

昆虫界において、シロアリの女王と王は「仲が良いことで有名」と言われています。群飛を終えてペアとなったシロアリの王と女王は、自分たちの新たな巣を築くため、その後も常に行動を共にするのです。

巣作り前の「追尾行動」

面白いことに、ペアになったばかりの女王と王は、巣作りに適した場所を探して移動する際に特徴的な行動を取ります。それは、2匹が連なるように一列に並び、女王の後ろを王がぴったりと追いかけて行進する「追尾行動」です。

(動画)イエシロアリの成熟した女王アリ。腹部が大きく発達する。
シロアリの女王にくっつく王

(写真)ヤマトシロアリの追尾行動。

 
この行動は、女王が発する特有のフェロモン(匂い)に反応して、王がその匂いを追うかたちで起こります。追尾行動は短時間しか見られず、かつ地表で確認できるタイミングも限られているため、実際に目にできるのは非常にレアケースです。

地中に潜った後も“一生ペア”

シロアリの王と女王が「仲が良い」と言われる理由は、この追尾行動だけにとどまりません。巣を作って地中に潜った後も、王と女王は基本的に生涯を通して同じ空間で暮らします。これは昆虫の世界では非常に珍しいことです。

多くの昆虫では、繁殖行動が終わると雄は役目を終えて死ぬか、雌と離れて単独で過ごすのが一般的。子育てや繁殖後の生活を夫婦で共にするという概念自体が、ほとんど存在しないのです。

その中でシロアリの王と女王は、ペアとして一生を共にし、コロニーの維持・繁栄を支えるという、極めて特異な関係性を築いています。

シロアリの女王が持つ特殊な生態

ヤマトシロアリの副女王

シロアリの中で最も一般的な種類であるヤマトシロアリの女王は、他の昆虫にはない特異な生態を持っています。それはなんと、自らの「分身」をつくる能力を持っていることです。

女王は“自分のコピー”を無性生殖で生み出す

ヤマトシロアリでは女王と王とで寿命に差があり、女王は比較的短命で、やがて新たな女王に置き換わると考えられています。この二次女王(副女王)は、元の女王が無性生殖によって生み出した個体。つまり、すべてが女王自身のクローンなのです。

このようにして女王は、自身が死ぬ前に複数の分身を生み出し、巣の拡大と継続を図ります。遺伝的に安定かつ若い分身を増やすことで、繁殖力やコロニーの活力を維持するための戦略です。

なぜ「コピー」なのに多様性が保てるの?

少しだけ遺伝子の話をしておきましょう。
 
女王が二次女王を無性生殖で生むとはいえ、「すべて同じ遺伝子になるのでは?」と疑問に思う方もいるかもしれません。しかし、ヤマトシロアリはこの点でも巧妙な仕組みを持っています。
 
たとえば、人間の血液型を例にすると、A型の人でも「AO」型のように、異なる設計図(対立遺伝子)を持っていることがあります。このように異なる設計図を持つ状態をヘテロ型、同じ設計図だけを持つ状態をホモ型といいます。
 
ヤマトシロアリの女王が仮に「AB」というヘテロ型の遺伝子型を持っている場合、無性生殖によって生まれる子(分身)は「AA」または「BB」のホモ型になります。つまり、コピーであっても、遺伝子の組み合わせによって多様性が生まれるのです。
 
さらに、ヤマトシロアリが持つ遺伝子型は21あるため、その組み合わせパターンはなんと200万通り以上にもなります。このため、クローンとはいえ、実際にはそれぞれの二次女王が遺伝子的に少しずつ異なる個体となり、環境変化への適応力を保ち続けているのです。

永遠の命と、柔軟な適応力

ヤマトシロアリの創設女王は、自らの分身を次々と生み出すことで、自分の“遺伝的な命”を永遠に継承し続けているとも言えます。同時に、分身それぞれの遺伝子が異なることで、単一なコピーに陥らない多様性と進化的柔軟性も確保しているのです。

まさに、シロアリの女王は「永遠の命」と「変化への適応」という相反する2つの力を両立した存在だといえるでしょう。

女王アリは1日にいくつ産卵するのか

シロアリの社会は、役割が明確に分かれた「階級社会」です。その中で女王アリも例外ではなく、自身の仕事を果たす働き手の一員です。その仕事とはもちろん卵を産むこと。ただ休んでいるだけの存在ではありません。

女王アリの産卵数は意外と控えめ?

巣を創設したばかりの女王は、職蟻(働きアリ)が育つまでの間、王と共に卵の世話を行います。しかし職蟻が増え、コロニーが安定してくると、女王は産卵に専念するようになります。では、どれくらいの数の卵を産むのでしょうか?

たとえばヤマトシロアリの女王は、1日に約25個の卵を産むとされています。年間に換算すると約9,000個。これを「多い」と感じるか「少ない」と思うかは人それぞれかもしれません。ちなみに、アフリカの一部のシロアリでは1日に6,000〜7,000個の産卵が確認されており、比較するとかなり控えめです。

シロアリの卵

(写真)シロアリの卵。

(写真)初期コロニーの巣内。数個の卵を確認することができる。

「移動型」の生活スタイルゆえの制限

ヤマトシロアリは決まった巣を持たず、木材などを一時的な拠点として移動しながら暮らすノマド型の生活スタイルです。このため、女王自身も巣の移動に対応できるようにしておく必要があります。卵巣が発達しすぎると移動が困難になるため、ヤマトシロアリの女王は産卵能力にあえて制限をかけているのです。

一方、イエシロアリは定住型の生活を送り、恒久的な巣を構えて一生その中で暮らします。このため、イエシロアリの女王は産卵能力が非常に高く、1日に300個以上、年間で10万個を超える卵を産むといわれています。その代わり、卵巣が極度に発達しており、自力では動くことがほとんどできません。

数の力でカバーする女王アリ量産システム

では、ヤマトシロアリは少ない産卵数のままコロニーを維持しているのでしょうか?実は、ここに分身の術(二次女王の存在)が関係しています。

巣が成熟してくると、創設女王は無性生殖によって(二次女王)副女王を多数生み出し、自らの役割を次世代へ分散していきます。記録によれば、1つの巣に600匹以上の二次女王が確認されたケースもあります。

ヤマトシロアリの二次女王

(写真)ヤマトシロアリの副女王(腹部が肥大化した個体)。複数の個体を確認することができる。
ヤマトシロアリの卵塊

(写真)副女王の数が多いと産卵数も非常に多くなる。

 
これらの二次女王がそれぞれ1日に25個の卵を産むと仮定すれば、全体では1日で約15,000個、年間で500万個以上の産卵が可能という計算になります。

もちろん、これはあくまで理論値であり、実際の数とは異なる場合もあります。ただ、女王の数を武器にしたシステムがヤマトシロアリのコロニー拡大を強力に支えているのです。

シロアリを駆除する時は女王よりも王を優先

シロアリの女王と王

シロアリの駆除において大切なのは「女王」と「王」の存在ですが、厳密に言うと女王よりも王を駆除することのほうが重要です。その理由は、王は女王と違い分身の能力をうまく使えないからです。

女王は「代替可能」、王は「唯一無二」

ヤマトシロアリの女王は、寿命こそ長くないものの、無性生殖によって自分のコピーである二次女王を複数生み出し、繁殖機能を継承していきます。これにより一個体としての死を迎えても、女王という役割は遺伝的に不死のように継続されるのです。

一方、王アリにはそのような分身をつくる機能がほとんどなく、王の死=コロニーの終焉につながる場合が多いのが現実です。理論上、副王(副生殖虫の雄個体)が発生する可能性もありますが、これは非常に稀なケースであり、王を失った巣は多くの場合、崩壊していく運命にあります。

駆除現場での優先度とは?

駆除の現場では、次のような優先度でターゲットを絞っていく必要があります。

駆除の優先度

王 > 女王 > 職蟻・ニンフ> 兵蟻

兵蟻は巣の防衛に特化した個体であり、自ら餌を摂取することもできません。駆除の本質は、繁殖能力を持つ中心的存在を叩くことにあります。したがって、駆除の成否を分けるのは、いかに王や女王にまでダメージを与えるかにかかっています。

必ずしもシロアリの王や女王の駆除を意識する必要はない

余談にはなりますが覚えておいて欲しいのは、シロアリ対策には駆除、予防、2つのアプローチがあるということです。

駆除はシロアリの巣の内部にまで影響を与え、最終的には巣ごと全滅させることを目的としています。一方で予防は巣にまでは干渉せず、建物のシロアリが侵入する可能性がある箇所への薬剤処理を施し、建物にシロアリが 侵入してくるのを防ぐ処理をすることが目的です。

「シロアリの駆除」という視点ではシロアリの王を駆除することが大切ですが、「建物をシロアリから守る」という視点では必ずしもシロアリの王や女王の駆除を意識する必要はないのです。

まとめ

今回はシロアリの女王についてその役割や種を存続させるための工夫についてご紹介してきました。

シロアリは非常に小さい生き物ですが、自分たちの生存を掛けた様々な工夫を凝らしている事がわかっていただけたのではないかと思います。私たちにとってはその生命力の強さが脅威になることもあるシロアリですが、その生態を知ることにより「共存」も可能になります。

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参考文献
松浦健二,矢代敏久(2014)「昆虫が有性生殖と単為生殖を切り替える仕組みを解明
松浦健二,高田守,小林和也(2024)「シロアリ女王の椅子取りゲーム―熾烈な内部競争がもたらすコロニー全体のコスト-
松浦健二(2017)「100年生きる昆虫は存在するか?」(TEDxTalks,YouTube)
土井修一 他(2023)『シロアリ及び腐朽防除施工の基礎知識 新版』(公益社団法人日本しろあり対策協会)
吉村剛,板倉修司,岩田隆太郎,大村和香子,杉尾幸司,竹松葉子,徳田岳,松浦健二,三浦徹(2012)『シロアリの事典』(青海社)