珍しい地域でのシロアリ被害

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Researcher

研究者プロフィール
田中 勇史

研究室長 2007年入社

シロアリ業務技術開発課専任課長

大学では昆虫類の研究に携わる。2007年テオリアハウスクリニックに新卒入社。 これまで3000件を超える家屋の床下を調査。皇居内の施設や帝釈天といった重要文化財の蟻害調査も実施。 大学の海外調査にも協力。

interview

こんにちは。田中です。

今回は、これまで行ってきた数々のシロアリ駆除の中でも非常に珍しかった事例をご紹介したいと思います。

電話越しに感じた被害状況の違和感

それは2011年のこと、茨城県結城市という地域にお住まいの方からシロアリ被害についてご相談のお電話を一本いただいたことから始まりました。

最初かかってきた電話では、「我が家に、アメリカカンザイシロアリの被害が発生しているかも知れない」とのことでした。

ご相談をいただいた時の流れとして、まず被害の場所や羽アリの有無、症状の特徴などをご質問をさせていただいています。

この時、お客様からは

  • 粒ではないサラサラした粉が落ちてくる
  • 何回か駆除してるが一向に止まらない
  • 違うタイプのシロアリかもしれない

といった事をお話しいただいたのですが・・・

実際のアメリカカンザイシロアリの特徴とはどうも噛み合わず、「うーん、それは本当にカンザイシロアリなのかな?」という疑問がわいてきました。

そこでシロアリや落ちてくるという粉を一度郵送して頂き、確認してみることにしました。

送られてきたシロアリの正体

さて、送られてきた封筒を開封してシロアリの同定をしてみたところ、私の疑問は確信に変わりました。

そのシロアリはアメリカカンザイシロアリではなく、イエシロアリであることがわかったのです。

また、落ちてくるという粉状のものはイエシロアリが作る特殊な「分巣」の欠片であることも分かりました。

なぜ珍しいと言えるのか?

イエシロアリ自体はそれほど珍しい種類ではありません。

関西エリアでは広く生息していますし、関東エリアにも局所的には存在することが知られてます。

ではどうしてそれが珍しい事例と言えるものだったのか?

それは発見された「場所」にあります(実は冒頭でさらっとお話ししたことの中にヒントが隠されています)。

そもそもイエシロアリが関東エリアにあまり生息しない理由は寒いからです。イエシロアリは寒さがとても苦手な生き物で、北に行けば行くほど見つけにくくなる傾向にあります。

これまでイエシロアリの被害が報告されていた北限は潮来市辺り、経緯で表すと北緯35度53分、東経140度40分になります。

それに対し、今回ご相談をいただいた「茨城県結城市」は、北緯36度19分、東経139度54分、つまり発見されたイエシロアリはそれまでの北限ラインよりもさらに北に位置した地域に生息していたのです。

わずかな違いも貴重なデータ

もしかすると「ちょっと北の方で見つかったことがそんなに驚くことなの?」と思うかも知れません。しかし結城市は年平均13.2℃であるのに対し潮来市は14.6℃と、1℃以上も低い地域であることがわかります。

昆虫の温度変化に対する感覚は人間よりもはるかに敏感で、昆虫にとって1℃の違いは、人間で言うと数℃体感が変わってくるのと一緒です。

イエシロアリは私たちが想像していた以上に寒い場所でも活動できることが分かりました。

目撃したイエシロアリを駆除

建物への被害を確認

事前の調査は薬剤販売会社の方にも同行してもらい、計6名で行いました。

建物への被害は、目に見える所だけでもフローリングが「盛り上がる」という形で発現していました。これだけでも、「今回の被害の張本人は明らかにカンザイシロアリじゃないよな」と改めて感じさせられました。

イエシロアリの駆除で重要なのは、「分巣」と「本巣」の位置に見当をつける事です。分巣はあくまでも「中継地点」です。本拠地となる本巣がどこにあるかを特定することで駆除が可能になります。

分巣の位置は住居側玄関脇の壁体内部に有ったことが、リフォームを手掛けた工務店の方からいただいた写真で分かっていました。

さらに、玄関向かって左側にあたる部屋の荒床と断熱剤の部分にも分巣と思われる塊が工務店の方の写真によりあったことが分かっています。

また、南側を中心に床下木部に被害が確認されました。

イエシロアリのすみかを突き止める

南東角に最初の侵入口である蟻道を発見しており、分巣位置や被害箇所などいくつかの根拠から推測し、住宅玄関ポーチから犬走りの間に本巣があるのではないかというところまでは絞り込むことはできました。

この場所は、建物の外周において日の出から日没まで日当たりの良い場所に位置しています。

また、この場所の南西角には散水栓が立ち上げられており、水取りには絶好の環境が整っています。ほぼ我々は本巣の位置はここであると判断し、駆除施工を行いました。

周囲の環境は、標高50~60mの台地に広がる田園地帯で砂礫土質の土地に建物が建てられています。周りに目立った植栽はないが、その昔は雑木の防風林だったのかもしれません。

また、建物全体はもとより、周辺環境などの調査をターマトラック(非破壊シロアリ検知器)等の機器を用いて実施もしています。

大規模な駆除施工に

駆除作業は、弊社の5名で行いました。処理内容は以下の通りです。

南側被害箇所を中心に犬走り・外壁・玄関ポーチ・エントランス・玄関土間・ドア枠・スロープ部・住宅側玄関壁体内被害箇所近辺木部・床下被害木部への穿孔注入処理を行い、床下GL処理(ベタ基礎部への薬剤散布)・床下木部吹き付け処理・2F点検口より1F玄関側天井裏の吹き付け処理も行っています。

内壁処理ではなく外壁処理としたのは、内壁が木製であり、木部に穿孔するよりは外壁タイル目地部へ穿孔した方が、景観を損ねにくいとの判断によるものです。

通常、ヤマトシロアリでは、玄関エントランス部やスロープといった箇所の薬剤処理は行いません。

しかし今回被害をもたらしたシロアリがイエシロアリであり、これらエントランス部や犬走り下に本巣がある可能性があることから、その辺りは重点的に穿孔注入処理を行いました。

また、玄関部ではクローゼットとタタキ部との隙間よりシロアリが侵入してきていましたので際部への穿孔注入処理も行っています。

周辺にまだまだたくさん潜んでいる?

以上、今回茨城県結城市で新たに発見されたイエシロアリの被害状況とその駆除について報告致しました。

なかなか、初めての地域におけるシロアリ駆除に携われる機会はそう多くはありませんし、とても良い経験をさせて頂いた案件となりました。

まだ被害報告は一件のみですが、周辺にはまだ生息している可能性も示唆されることから、今後も周辺の調査・ヒアリングなどを行っていく必要もあるのではないかと思われます。

これからも皆様のお役に立てる情報発信をしていこうと考えておりますので次回もお楽しみに。

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