新薬「クロラントラニリプロール」の効果を検証!|シロアリ1番!
COLUMN
シロアリコラム
投稿日 2022.03.29
シロアリ駆除
新薬「クロラントラニリプロール」の効果を検証!

WRITER

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田中 勇史
しろあり防除施工士

大学では昆虫類の研究に携わる。2007年テオリアハウスクリニックに新卒入社。これまで3000件を超える家屋の床下を調査。皇居内の施設や帝釈天といった重要文化財の蟻害調査も実施。大学の海外調査にも協力。
こんにちは。シロアリ1番!の田中です。
今回は「クロラントラニリプロール」という薬剤の検証試験をしてみました。
その結果についてまとめていきます。
クロラントラニリプロール誕生の背景
この薬剤自体、皆さんはあまり馴染みがないかもしれません。
というのも、クロラントラニリプロールは現行でメジャーな薬剤である「ネオニコチノイド系」に代わる有効成分として最近注目され始めた薬剤だからです。
確かに現在使用しているネオニコチノイド系のシロアリ薬剤は、その安全性を様々な試験によって既に立証されている非常に優秀な薬剤です。
しかし、ネオニコチノイド系はシロアリ薬剤以外にも農薬など多岐にわたって使われており、最近では様々な生き物に影響があるのでは?と噂されるようになってきているのも事実です。
今後調査が進むにつれ、使用が制限されたり禁止となる可能性も決して否めません。
そういった状況を踏まえ、もしもの時にはすぐに対応できるようにという事でクロラントラニリプロールは期待が持たれています。
クロラントラニリプロールってどんな薬剤?
クロラントラニリプロールはシロアリの「顎」に作用する薬剤です。
顎の筋力を衰えさせて食べ物を摂取できなくし、最終的に餓死させる・・・というのが狙いです。
あくまでも食物摂取不全でシロアリに対し効果を発揮する薬剤なので、神経に直接作用するネオニコチノイド系薬剤などと比べて伝搬には時間がかかるとされています。
ただし、伝搬により長い時間を要するということはそれだけ巣の奥深くまで薬剤が行き渡りやすいことを意味しており、その効果に期待が持てます。
さっそく検証試験を行ってみることにしましょう。
新しい成分で、しかもこのような効果を発揮する薬剤は私自身経験がありません。どのような結果が得られるのか楽しみですね。
薬剤伝搬の仕組みを考えてみる
まずは一つ仮説を立ててみることにします。
食物の摂取ができなくなることを目的としている薬剤なので、真っ先に効果が現れるのは食料集めを行っている職蟻と思われます。
また、職蟻が食物を得られなくなることで仲間たちに栄養を回すことができなくなっていくため、順にニンフ・兵蟻、やがては女王・王へと徐々に影響がでてくると考えました。
実際の結果はどうなるのでしょうか?
早速、検証試験の結果を覗いてみることにしましょう。
仮説の検証
試験内容は統一性を持たせるためにネオニコチノイド系薬剤での試験と同様のセットを組みます。
2セット用意しました。
検証では、
- 薬剤の忌避効果の有無
- どのように効果が現れるのか
を見ていきます。
こちらも毎回おなじみとなりましたね。
まずは忌避効果の有無から。投入直後の様子を観察し、シロアリの反応を確かめます。
どちらのシロアリも放たれた直後から薬剤層に向かって進む個体が多く見られました。
薬剤を気にする様子は見られませんね。
この様子から、クロラントラニリプロールに忌避効果はないことが分かります。
存在をシロアリに気付かれてしまってはスムーズに効果が発揮されませんので、まずは良い兆候と言えます。
変化が見られたのは開始から約4時間後のこと。
数匹のシロアリが倒れ始めましたね。
餓死すると考えていたので普通に死滅していく姿にちょっと意外な印象を持ちました。
ただ、倒れていくシロアリ達にはある共通点がありました。
それは、階級が全て職蟻(働きアリ)だということ。
その後も時間を経るごとに生存個体は少なくなり、投入から1日が経過した時点で8割ほどの職蟻が死滅しました。
そういう意味では結果自体は当初の仮説通りと言えますね。
ちなみにこの時、職蟻以外に一緒に入れていたニンフには特に変化は見られていません。
ここまでの試験結果から見ても、この薬剤は職蟻に対してダメージを与える薬剤であることが分かりますね。
仕組みとしてはとても合理的だと思います。
というのも、ニンフや兵蟻といった階級のシロアリたちは自分で餌を摂ることができず、エネルギーの供給は職蟻に行ってもらっています。
職蟻がいなくなったことにより、餌を摂取できなくなった他のシロアリたちも徐々に餓死していく、というのが筋書きでしょう。
初めに職蟻をピンポイントで機能停止させてしまうことで、巣全体のバランス崩壊を狙う. . .
実に良く考えられた薬剤です。
ただ、実際のシロアリ駆除で活用するとなると少し不安に感じる点もありました。
今回の試験では最終的にニンフへ影響が出るまでにおよそ一週間かかりました。
試験用の小さなケース内でそれだけかかったということは、実際の現場ではもっと時間がかかることを意味します。
これまで使用してきたどのタイプのシロアリ薬剤よりも効果が遅く現れる印象です。
確かにそれがクロラントラニリプロールの特性でもあり、狙い通りだと言えます。しかし発動までの長さが別の問題を引き起こすリスクも考えられます。
現代のシロアリ駆除事情との摩擦
というのも、昨今では「シロアリに建物へ侵入してほしくない」「早くシロアリを駆除したい」というお客様が多くいらっしゃいます。
そういったお客様のニーズとは少し噛み合わないのかもしれません。
また、効果が現れるまでに時間がかかるということは、それだけイレギュラーな事態が起こりやすくなることを意味します。
例えば「シロアリ駆除をしてもらったのにまたシロアリを見つけた」といったお問合せなどですね。シロアリが死滅する前にお客様が再び発見するケースも考えられます。
施工前のお客様への説明など、より工夫が必要となる場面があるかも知れませんね。
さいごに
今回はネオニコチノイド系薬剤に代わると期待が寄せられる新薬、クロラントラニリプロールの検証試験を行いました。
これまでのクロチアニジンやビフェントリン同様、シロアリに対しての効果は非常に高く、しっかりと死滅させることが可能であると確認できました。
また、成分が変わることで効果発動のプロセスも大きく変わったこともわかりましたね。
効果の原理や発動までの期間など、お客様に納得していただいた上で施工する必要がありそうです。
新薬はクロラントラニリプロール以外にも開発されています。
別の薬剤も同じように試験をし、比較してみるのも面白いかもしれません。
それではまた~。