歴史的建築物・古民家の蟻害腐朽検査の事例

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Researcher

研究者プロフィール
田中 勇史

研究室長 2007年入社

シロアリ業務技術開発課専任課長

大学では昆虫類の研究に携わる。2007年テオリアハウスクリニックに新卒入社。 これまで3000件を超える家屋の床下を調査。皇居内の施設や帝釈天といった重要文化財の蟻害調査も実施。 大学の海外調査にも協力。

interview

こんにちは。田中です。

今回は「古民家の蟻害腐朽検査」と言うテーマでお話しをしていきます。

古民家とは築年数はゆうに50年を超え、茅葺き屋根で、囲炉裏がついていて、家の中には石うすや釜が置かれている、そんな日本古来の住まいを指します。

さて、古民家の中には「重要文化財」と呼ばれているものが存在します。

文化財とは歴史的に価値のある有形文化財のことを指し、その中でも文部科学大臣によって指定された文化財を「重要文化財」と言います。

美術品・考古資料・歴史資料などと並んで、日本人がどのような生活を送ってきたのかを知る上でとても大切な、後世に残していく必要のある建物ですからね。

そんな古民家での蟻害腐朽検査の様子をご紹介していきます。

蟻害腐朽検査の2つの視点

蟻害腐朽検査には2つの視点があります。1つ目は「現状建物にシロアリ被害や腐朽が存在するかどうか」です。

建物にシロアリ被害や腐朽が存在するかどうか

まずは丁寧に建物の状況を確認していきます。 古民家の通常の建物との大きな違いは「床下」の有無です。

現代の多くの建物は、基礎の上に土台が存在し、その上に私たちが普段生活を行う空間が作られています。そのため、玄関や浴室などの一部を除いて、ほぼ全ての場所に床下空間が存在します。

また、浴室やキッチンには、「床下点検口」と呼ばれる床下をメンテナンスする際に進入するための入り口も作成されています。 一方、古民家は「土間」、つまり床下が存在しない空間が敷地の半分程度を占めています。

床下がない空間でシロアリの被害が腐れがないかどうかを調べるポイントは、「建物の内側と外側からしっかり観察すること」です。両面から木を慎重に調べていきます。

居間下については床下が囲われている空間が存在します。しかし多くの住宅とは異なり、古民家には床下への進入口が存在しないケースが大半です。

通常の住宅であれば和室下やフローリングなどに床下点検口を新設することが可能ですが、歴史的建築物である古民家でそういった手段を取るわけにはいきません。

小さな隙間から床下を覗きながら、建物の下側にシロアリの食害が見当たらないかどうか確認していきます。 柱の根元にシロアリの食害を発見しました。

被害が進行している様子は見受けられなかったことから、過去に発生した被害だと推測されます。

水車横で腐朽が発生しているのを確認しました。断続的に水分の付着が原因であると考えられます。

とはいえ、総合的に見ると今回調査を行った建物群では、特に深刻な被害は見受けられませんでした。そう言う意味では、まずは安心できる状態であったといえます。

今後のシロアリ・腐れ対策をどのように行うべきか さて、蟻害腐朽検査におけるもう1つの視点は「今後のシロアリ・腐れ対策をどのように行うべきか」です。

いくら現状が問題がないといっても、それがずっと続くという保証はありません。

木材は放置するとシロアリ、腐朽のリスクは時間を経るごとにどんどん上がっていきます。 いずれは問題が発生することになるでしょう。そうならないようにするためにも、現状で安心するのではなく、将来の対策も同時に考える必要があります。

シロアリ被害のリスクを最も小さくできるのはやはり専用の薬剤による対策を行うことです。 とはいえ古民家の場合は現状の調査と同様、薬剤散布も一般的な住宅のように行うことができないケースが大半です。

原因として、先ほどご紹介した「土間」の存在が挙げられます。 通常は床下に液剤を散布する「バリア工法」がメインとなりますが、床下が存在しない場合や、床下は存在するが進入口がなく薬剤の散布が困難な場合、隙間から散布が可能な場合、ベイト工法による対策が困難な場合など、さまざまなケースが想定されます。 それらの状況に合わせて適切な処置方法を考え、提案していく必要があります。 今回、蟻害腐朽の検査対象となった歴史的建築物は約30棟ありましたが、それぞれの建物でどのように施工を行うべきか提案をさせていただきました。

まとめ

今回は古民家で実施した蟻害腐朽検査についてご紹介させていただきました。

築年数が非常に古い特殊な建物では調査の方法や施工の提案など、普通の物件とは異なります。

しかし、シロアリが建物に被害を与えるまでのプロセスなどは普通の家と正しい知識があればしっかりと対策を行うことは可能なのです。

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